top of page

卒業設計を振り返って -不自由の享受 ひとは迷う―


わたしは階段が好きだ。

階段という形が好きだ。階段の持つ機能が好きだ。階段から見る景色が好きだ。

そんな好きって気持ちとひたすらに向き合って、卒業設計に臨んだ。

とはいえ最初は、別に階段ではなかった。

最初は卒業論文の敷地だった大名に何か作りたいなって気持ちで設計をし始めた。大名という場所は「奥」と感じるような店舗が多くて、行きにくさや見つけにくさが店舗自体の魅力を創出する要因の一つになっていることを知った。また、大名という土地を回っているときに、大名にはゆっくり休むことのできる場所が少ないようにも感じた。だから、そんな思いをもって卒業設計を始めたことからまさか階段を作ることになろうとは、この時は思いもしなかった。



そんなこんなで敷地だけは決めていた自分であったが、研究室で月に1回行われる卒計ゼミでは毎回作るものやテーマが変わっていて、先生からはこいつは結局何がしたいんだというような目で見られていたような気がする。その頃の自分は何が好きで、どんなことをしたいのかわかっていなかったと思う。だからテーマもブレブレで、周りの同級生たちがテーマや形を決めていくのを横目に見ながら、やばいなあと焦っていた。(焦っていなかったかもしれない)。そんなことをしているうちに1月中旬に差し掛かって、なぜか自分は階段を作りたいと考えた。街を歩くとき、急がなくてもいい道って何だろう、ふと立ち止まって休んでもいい道って何だろう、景色がどんどん変わって面白くなる道って何だろうと考えたら、ああ階段だなってなったんだと思う。補足をするならば、大名にある小規模店舗の場所が作れたらとも考えていたから、なんだか土地を宙に浮かせたかったのかもしれない。

そんな感じで、階段を絶対に使って卒業設計しようと考えたものの、どうしても外観がなかなか決まらなかった。あれでもないこれでもないと、模型をつくったり、モデリングしたりといろいろ試してはみたものの、なかなか決まらず時間だけが過ぎていった。



そんな時、プラプラと大名を散歩しながら階段を眺めていたら、階段って芋虫や蛇に似ている気がすると感じた。うねうねと上に登っていく姿がそう感じさせた。

そこで、階段を芋虫や蛇に置き換えて考えてみると、店舗という壁を芋虫が喰ったり、蛇がその周りを伝ったりというイメージがわいてきた。そして、階段が伝った場所が人の過ごす場所になるんだと、そんな風に設計をしようと決めた。

形が決まると、そこでどのように人が過ごすか、どのようなコンセプトの建物になるかが少しずつ見えてきた。大名らしさを残しつつ、階段を使ったコンセプトだと、上りながら人が迷うのがいいと感じ、「ひとは迷う」とタイトルにつけた。そして、階段の持つ不自由さとは店舗を回る時には魅力の1要素となるのではないかと考え、「不自由の享受」となった。不自由を享受するといった、どこか逆説的で不可解な印象を抱かせるこのタイトルを筆者はひそかに気に入っている。ひとは迷うに関しても、人生のあらゆるところで迷い続けてきた筆者だからこそ卒業設計で迷いと向き合いたいといった思いがあったのかもしれない。

いろいろ紆余曲折はあったが、周りの後輩や先輩の協力もあって何とか卒業設計を終わらせることができた。協力してくれた方々には本当に感謝しています。



苦しいこともたくさんあったが、卒業設計はおそらく本当に自分とちゃんと向き合える機会だと思う。誰かに認められるため、何か賞を取るといったことを目標にするのもいいが、まずは自分自身と向き合う機会の1つとして取り組むのもいいのではないだろうかと筆者は考える。もちろんすべてがうまくいったわけではないし、自らの実力不足を嘆きはしたものの、自分の好きなことができて幸せだったと今では思う。

Comments


特集記事
最新記事
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
bottom of page